日本一周サーフトリップ2日目|室蘭で波に乗り、夜の函館へ

波乗り紀行

2024年7月18日。
北海道サーフトリップ二日目の朝。

目が覚めたとき、まだ旅は始まったばかりなのに、もう少しだけ自分が遠くへ来てしまった気がしていた。

北海道をサーフィンしながら一周する。
それは、もう決めていた。
問題は、どちらへ回るかだった。時計回りか、反時計回りか。ただそれだけのことなのに、旅の最初の分かれ道というのは妙に大きく見える。

スマホでWindyを開く。
地図の上を流れていく風と波の予報を、しばらく無言で眺めた。

日本海側が、近いうちに少し面白くなりそうだった。

それで決まった。
時計回り。
理由としては十分だったし、旅の決断なんて、案外そんなものでいいのだと思った。

苫小牧から西へ向かう。
道はまっすぐで、空は広く、景色はすでに本州の縮尺ではなかった。

最初に目指したのは白老町だった。
札幌からも日帰りできる範囲にいくつもサーフポイントが点在していて、地図の上では近く見える。だが実際に走ってみると、その「近さ」は北海道スケールであることを思い知らされる。

手始めに白老漁港をチェックする。
すでに何人かサーファーが海に入っていた。

波はヒザ〜モモ、setでコシあるかどうか。
割れてはいる。けれど、胸が騒ぐような斜面じゃない。だらりと崩れて、乗ってもすぐ終わってしまいそうだった。

時間はまだいくらでもあった。
焦る理由はない。
僕はそのまま次のポイントへ向かった。

途中、住宅街の脇でエゾシカを見た。
一瞬、置き物かと思った。こちらを一瞥して、少しだけ首を上げ、それから何事もなかったように走り去って行く。

たしかに可愛い。
だが、コイツが車道に飛び出せば洒落にならないし、畑に入れば害獣になる。

旅人には風景の一部でも、そこに暮らす人にとっては現実だ。北海道の広さというのは、こういう厄介さまで含めて北海道なのだろうと思った。

いくつかポイントを見て回ったあと、室蘭方面のとある河口に着いた。
ここにもサーファーがいた。

駐車スペースに車を止め、海を見る。

波はやはり小さい。
ヒザ〜モモ、たまのsetでコシ前後。
けれど、ここはさっきと違った。レフトの波が綺麗に割れていた。

派手さはない。けれど、ちゃんと乗れそうな波だった。小さいくせに、妙に品がある。

波を見ているうちに、駐車場でローカルサーファーと話すことになった。
室蘭在住のヨシアキくんという、感じのいい青年だった。

旅先でこういう人に出会うと、それだけでその土地の印象が良くなる。

「一緒に入りましょうよ」

せっかくなので、そうさせてもらうことにした。

海に入る前に、いつものように水温を測る。
水温は21度。
数字だけ見れば十分に思える。けれど、本州の太平洋側の感覚でいると、やはり少し冷たい。

気温は高かった。
僕は長袖タッパーにトランクス。これでいけると思った。
だが、隣のヨシアキくんはセミドライだった。

北海道の人間は寒さに強い。
そういう雑な理解を、旅人はつい持ちたがる。


でも、どうやらそういう話でもないらしい。寒いものは寒いのだ。土地の人は、無理をしないだけなのかもしれなかった。

波はよかった。一言でいえば、グーフィーパラダイスだった。

僕はレギュラースタンスだから、レフトはバックサイドになる。正直に言えば、これまであまり好んで乗ってきた波じゃない。できるならライトへ行きたい、ずっとそう思っていた。

だが、その河口のレフトは違った。
小さいのに、形がいい。
ショルダーがすっと続いて、急かさない。
一本乗るたびに、もう一本いきたくなる。

波はときどき、人が勝手に作った好き嫌いを簡単に壊す。
この日がそうだった。

気づけば三時間、どっぷり海にいた。

上がってからヨシアキくんと写真を撮った。
北海道一周のサーフトリップは幸先のいいスタート。

波乗りのあと、また車を走らせる。
各地のポイントを横目で見ながら、函館方面へ向かう。

室蘭から函館へ伸びる海岸線は噴火湾と呼ばれていて、普段はそう簡単に波が立たないらしい。

だが、しっかりしたウネリが入れば、とんでもなくいいブレイクが現れるという。そう聞くと、何も起きていない海まで少し特別に見えてくる。
またココを訪れる理由が、ひとつ増えた。

ランチは八雲町にある、ハーベスター八雲にて。
ケンタッキー日本法人出身のメンバーが創業したレストランで、フライドチキンが名物だという。

旅の途中の食事には、二種類ある。
腹を満たすだけの食事と、ちゃんと記憶に残る食事だ。

ここのチキンは後者だった。
本家の空気をどこか思わせながら、でも単なる真似ではない。しっかり美味かった。海を見て、波を追って、腹を空かせた身体に、ああいう味は沁みる。

そうこうするうちに、函館に着いた。
時刻は夕方だった。

もしかしたら、まだいけるかもしれない。
そんな期待を少しだけ持って、椴法華を見に行く。

だが、そう都合よくはいかない。
インサイドでショアブレイクが力なくブレイクするだけだった。

夕方はノーサーフ。
そう決めるしかなかった。

そのかわり、近くに気になる温泉があった。
『水無海浜温泉』(みずなしかいひんおんせん)。

波打ち際に佇むワイルドな露天風呂。一応水着着用が推奨らしいが、全裸でもOKとのこと。

満潮時は露天風呂自体が水没してしまうので、干潮前後の数時間のみ入浴可能、と言う幻の秘湯となっている。

ただ、今回訪れた時間がちょうど満潮と重なっており、入浴は叶わず。

惜しかった、と思う。
でも、旅というのは、うまくいかなかったことまであとで効いてくる。入れなかった温泉は、入った温泉よりも長く記憶に残ることがある。

時刻は黄昏どきだった。
周囲に響くヒグラシのオーケストラが心を癒してくれた。

結局、近くの日帰り温泉で汗を流してから、夜の函館市内へ向かった。

夕方まで海を追っていた人間が、夜には街で酒を飲んでいる。
その雑さが、旅には必要だと思う。

ずっと景色ばかり見ていると、人はだんだん観光地の一部みたいになってしまう。街の灯りの中に入って、店の扉を開けて、知らない土地の夜に混ざる。そのほうが、旅は少しだけ自分のものになる。

五稜郭の近くの居酒屋、「旬菜旬魚たじま」に入った。
料理はどれもよかった。
派手さはないが、ちゃんと美味い。そういう店だった。

大将はよく喋る人で、その喋り方に土地の温度があった。
旅先では、料理の味より、そういう何気ないやり取りのほうを覚えていたりする。

酒が回って、少し身体の力が抜けて、二日目が終わっていくのがわかった。

朝、自分はどちらへ向かうかを迷っていた。
けれど夜には、もうその迷いは消えていた。

白老で波を見送り、河口のレフトで遊び、噴火湾を眺め、幻の温泉に振られ、函館で杯を上げた。

旅は、まだ二日目だった。

なのにもう、会社を辞めて北海道まで来たことが、少しだけ正しかった気がしていた。

To be continued.

Photo Gallery

白老漁港の波。
牧草ロールを満載したトレーラー。北海道らしい風景だ。
波との出会いは一期一会。根気よく探すのがいい波を当てる秘訣。
室蘭の海水温。東北太平洋側とそこまで差はない。
室蘭市内のとあるポイントにて。数名のサーファーが入っていた。
メジャーポイントを除けば、北海道は貸切サーフィンが当たり前。
函館市内のエゾシカ。苫小牧方面よりは生息数は少ないらしい。
椴法華から函館市街地へ戻る途中にある温泉施設。入浴料は360円。
対象の料理はどれも絶品だった。これは函館名物イカに雲丹を載せたもの。

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