2024年7月22日。
この日の旅は、少しゆっくりしたスタートとなった。
北海道の朝は早い。
それなのに、あえてゆっくり動き出す日がある。波が読めない日、風が定まらない日、無理に急いでも仕方がない日だ。
そんな朝には、まず腹を満たすのがいい。この日は朝9時開店の店で朝食を取ると決めていた。
お目当ての店に着くと、すでに行列ができていた。
観光地の行列はどこか作り物めいて見えることがあるけれど、港町の朝の列には生活の匂いが残っている。
みんな静かに順番を待っていて、余計な熱気がない。僕はブリ定食を目当てにしていた。
だが、夏はブリがないと言われた。少しがっかりしたものの、旅はたいてい思い通りにならない。そのたびに、別のものを受け入れるしかない。結局、無難にホッケ定食を頼んだ。

それが、悪くなかった。
むしろ、よかった。炊き立ての白米、焼き魚、味噌汁、大根おろし、もずく酢。至極シンプルなこういう朝食は旅先で妙に沁みる。身体がちゃんと整っていく感じがする。
食後に併設の鮮魚店も覗いてみた。魚は大きく、しかも安い。近所にこんな店があったら、酒のアテには困らないだろうなと思う。そういう、旅先でしか役に立たない想像をする時間も嫌いじゃない。
余市駅前を少し歩いた。
こぢんまりとしていて、綺麗だった。観光地らしく飾り立てているわけでもなく、かといって寂れすぎてもいない。
海沿いの街には、独特の静けさがある。人が暮らしていて、魚が水揚げされ、季節がちゃんと巡っている。そんな当たり前のことが、街並みにそのまま出る。
腹も落ち着いたところで、ようやく海へ向かった。

最初に見たのは、狙っていたリバーマウスだった。前回よりサイズはある。けれど、ブレイクはインサイド寄りで、風もよくない。乗れないことはないかもしれない。
だが、無理に入っても、テイクオフしてすぐ終わる感じがした。旅先では、入らない判断をするのに迷うことが多々ある。せっかくここまで来たのに、という気持ちがどうしても残るからだ。
でも、そこで欲張るとロクなことがない。僕はその波を見送った。
次に向かったのは、以前ガソリンスタンドの店員に教えてもらったポイントだった。
そこにもウネリは入っていた。

ただ、やはりブレイクはインサイド寄りで、思っていたより地形が深い。ウネリはあるのに波がパッとしない。そういう微妙なズレが、この日のあちこちにあった。そこもパスした。
さらに少し南下して、海水浴場のポイントを見た。
ここで初めてサーファーとすれ違った。
小樽から来たという彼は、サイズアップを見越して海を見に来たらしい。軽く挨拶を交わし、少し話す。旅先でサーファーと交わすこういう短い会話には、妙な安心感がある。海のことしか話していないのに、その土地にひとまず受け入れられたような気持ちになる。
肝心の波はシャバシャバしていて、見た目にも力がなかった。ここも見送るしかなかった。

そのすぐ南に、以前から気になっていたポイントがあった。
着いてみると、駐車場にはサーファーが一人いた。どうやら仮眠中らしい。僕もスマホを取り出して、潮汐と風の予報を確認する。
この日は大潮で、これから潮が上げてくる時間帯だった。今はオンショアだが、夕方には風が止む予報になっている。波はコシ、セットでハラくらい。面も悪くはない。ここで入ろう。そう決めるまでに、そんなに時間はかからなかった。
ただ、すぐには入らなかった。
僕も少しだけ仮眠をとることにした。波を待つ時間もまた、サーフトリップの本編だ。焦って海に入るより、風が一段落するのを待つほうがいい日もある。
一時間ほどして目を覚ます。
風はまだ少し残っていたが、海面とウネリはさっきよりもまとまり始めていた。これを逃す手はない。
着替えをして、いつものように海水温を測る。23.5℃。北海道の日本海側は思っていたよりずっと温かい。気温も高かったので、トランクス一枚で入ることにした。

海の上には、先客のサーファーが一人だけ。
軽く挨拶を交わして、二人だけのセッションが始まった。
平日とはいえ、千葉や湘南なら考えにくい密度だった。波は決して特別よかったわけではない。でも、悪くもなかった。誰にも急かされず、順番を気にしすぎることもなく、日が暮れるまでたっぷり乗れた。それだけで十分だった。
いい波というのは、形だけで決まるわけじゃない。誰と、どこで、どんな気分で入ったかでも、まるで別物になる。
海から上がる頃には、もう暗くなっていた。
着替えを済ませて小樽市内へ戻る。夜も遅い。ジムのシャワーでさっと汗を流し、そのまま街へ出た。
この日の晩飯は、小樽名物の若鶏の半身揚げだった。名前の通り、若鶏の半身を丸ごと揚げた、潔い料理だ。皮はぱりっとしていて、中はしっかりジューシー。
サーフィンのあとには、こういう高カロリーな食い物がちょうどいい。胃袋にそのまま一日を流し込むみたいに食べた。
その夜は、北海道の先輩が持っている物件に泊めてもらうことになっていた。
ありがたい話だった。車から寝具を運び込み、空き部屋に寝床を作る。
ただ、そこは電気が通っていない部屋で、エアコンも使えない。北海道の夜は涼しいと思い込んでいたけれど、閉め切った室内は普通に暑い。
窓を開け、蚊取り線香を焚いて横になる。完璧な宿じゃない。でも、そんな少し不便な夜のほうが、旅の手触りは残る。
明日もまた、波は無さそうだった。
なら、札幌へ行ってみよう、そう思った。海ばかり追いかけているつもりでも、旅はいつのまにか街のほうへも手を伸ばしてくる。
そうこうしているうちに、サーフィンの疲れがじわじわ押し寄せてきた。
次の舞台は大都会・札幌。サーフィンとは無縁の一日が、今度はどんな景色を見せてくれるのか。少しだけ楽しみにしながら、僕は眠りに落ちた。
To be continued.
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