2024年7月24日。
北海道8日目。
小樽のスーパー銭湯で一夜を明かし、朝はそのまま、すき家へ向かった。

旅の朝は、すき家か朝マックになることが多い。
特別うまいとか、そういう話ではない。
ただ、知らない町で朝から確実に開いていて、腹を満たせる場所があるというだけで、旅人にはありがたい。
この日も天気はあいにくの空模様。
空は鉛色、海もどこかぼんやりしている。
それでも、日本海側には少しだけ波がありそうな雰囲気があった。
ひとまず稚内を目指しながら、道中のサーフポイントをひとつずつチェックしていくことにした。
最初に向かったのは、札幌からもそれほど遠くない、とあるビーチ。

波はヒザ〜モモ前後。
風波でまとまりはなく、サーフィンするにはかなり厳しいコンディションだった。
当然、海には誰もいない。
夏の北海道。
それでも本州の海とは空気が違う。
海辺には、ウクライナ戦争の平和を願うオブジェがあった。
波を探しているだけの旅の途中で、ふいにそういうものに出会うと、少しだけ現実に引き戻される。

海は静かだった。
けれど、その静けさの奥には、どこか重たさもあった。
次のポイントへ向かう。
地図で見る限り、そこは海水浴場のようだった。
しかし現地に着いてみると、トイレや海の家らしき建物はあるものの、使われている気配がない。
夏なのに、人がいない。
海水浴場は開設されていないようだ。
北海道の日本海側を旅していると、こういう場所に何度も出会う。
かつては人が集まったであろう海。
今は静かに、ただ波音だけが残っている海。
波がないことよりも、その寂しさの方が印象に残った。


次のポイントへ向かおうとしたが、場所がいまいち分からない。
そこで、一度それらしき海岸を見渡せる展望台へ上がってみた。
上から見ると、海へ降りられそうな道がある。

「あそこから行けそうだな」
そう思い、車を走らせた。
辿り着いたのは、小さな漁港だった。


港の中に売店のような場所があり、そこで少し話を聞いてみる。
どうやら、このあたりにもサーファーはいるらしい。
やはり、ここはサーフポイントで間違いなさそうだった。
旅先でこういう話を聞けると、妙にうれしい。
ネットの情報だけでは分からない、その土地の体温みたいなものに触れた気がする。
親切に教えてもらったので、売店で買い物をした。
石狩の郷土料理、飯寿司(いずし)。
鮭とご飯、野菜を混ぜて発酵させたものらしい。
都会の店で食べたら、何気ない一品なのかもしれない。
でも、北海道の日本海を北上する途中、小さな漁港で食べる飯寿司には、土地の記憶のような深みがあった。
さらに北へ向かう。
次に訪れたのは、静かな漁港だった。
漁港の左側にはインサイドにテトラ。
右側は湾になったビーチ。


どちらも、うねりと風向きが合えばサーフィンできそうな雰囲気はある。
ただ、人がいない。
歩いている人すらいない。
サーファーがいるのか、地元ではどういう扱いの場所なのか。
聞き取りをしたかったが、誰にも聞けなかった。
こういう時、旅は少し難しくなる。
情報がない海を前にして、想像だけが膨らんでいく。
気を取り直して次のポイントへ。

ここは、地元では比較的メジャーな海水浴場のようだった。
駐車場、シャワー、トイレもしっかり整備されている。
旅人にとって、こういう設備の整ったポイントはありがたい。
波があれば、かなり使いやすい場所だと思う。
この日、波はなかった。
それでも、ここにはライブカメラがある。
ライブカメラがあるというだけで、次回以降の狙いやすさが全然違う。
波を当てる難易度は、かなり下がる。
波はなかったが、収穫はあった。
次に向かったのは、このエリアでは貴重なリーフブレイク。

波はなかった。
けれど、海を見た瞬間に分かる。
ここは、条件が揃えば良い波が割れる場所だ。
リーフ特有の緊張感がある。
ビーチのような気軽さはない。
でも、そのぶん、決まった時の波はきっと特別だろう。
次に北海道へ来る時は、ここでサーフィンしたい。
そう心に決めて、また車を走らせた。
次のポイントは、このエリアでは比較的メジャーなサーフポイント。

天気は少しずつ晴れてきた。
しかし、その代わりに風が出てきた。
海面はガタガタ。
波にまとまりはなく、サーファーの姿もない。
ここもチェックだけして、先へ進む。
旅の中では、こういう日がある。
行っても、行っても、良い波には出会えない。
でも、ひとつずつ海を見ていくことで、次に来る時の地図が頭の中に形作られていく。
石狩市を抜け、増毛町へ入る。
最初にチェックしたポイントも、風の影響でコンディションは良くなかった。
ここもパス。
さらに進むと、20年ほど前に海水浴場が閉鎖されたというポイントに着いた。
沖にはテトラが並んでいる。
その雰囲気は、どこか伊良湖の新日本に似ていた。
波があれば、面白そうな場所ではある。
しかし、ここにもサーファーの姿はない。
夏なのに、人がいない海。
北海道の日本海側では、それが当たり前なのかもしれない。
でも、やっぱり少し寂しい。
増毛を抜け、留萌へ向かう。
道北の日本海側では、留萌は比較的大きな街だ。
それでも、鉄道が廃止されていたり、町の空気にはどこか過疎化の影がある。

以前サーフィンしたことのあるポイントをチェックした。
やはり波は良くない。
それでも、地形は他のポイントに比べるとまだマシそうだった。
このあたりで波を狙うなら、やはりここは候補に入る。
隣のビーチでは、キャンプを楽しむ家族連れが多くいた。
北海道の夏は短い。
海も、キャンプも、外で過ごす時間も、きっとこの短い季節に凝縮されている。
本州の夏とは違う。
北海道の夏には、どこか急ぎ足の美しさがある。
留萌を抜け、小平町までやってきた。

海水浴場のポイントをチェックする。
そこには「遊泳禁止」の看板があった。
どうやら、今年は海水浴場として開設されていないらしい。
ここも無人だった。
ビーチに並ぶ海の家なのか、レストハウスなのか分からない建物も、どこか寂しげに見える。
波を探す旅のはずなのに、この日はずっと、人のいない海を見ている。
この日最後に向かったのは、名作『海から見た、ニッポン』で、俳優・坂口憲二さんがサーフィンしたポイント。

あの有名な、
「お湯ってすげぇ」
の名言が生まれた場所でもある。
サーフトリップをしている人間にとって、この場所には少し特別な意味がある。
波が良いとか悪いとか以前に、映像の中で見た海に実際に立つというだけで、胸にくるものがある。
しかし、ここにもサーファーはいなかった。
結局この日、サーファーを一人も見かけることはなかった。
波がない。
人もいない。
ただ、日本海だけがずっと横にあった。
日が暮れてきたので、汗を流しに温泉へ向かった。
留萌市街地からもほど近い山の中にある、温泉ホテル。
決して新しい施設ではない。
むしろ古い。
でも、創業から70年近いという老舗温泉ホテルには、新しい施設にはない味がある。
昭和の空気。
くたびれた建物。
少し暗い廊下。
そして、旅の疲れをじんわり溶かしてくれる湯。
綺麗かどうかではない。
こういう場所に入ると、「旅をしている」と実感する。
湯船を出る頃には、体の重さが少し抜けていた。
夜は街中華へ。
麻婆豆腐と冷麺を頼んだ。
辛さと冷たさ。
湯上がりの体。
疲れた旅人の腹。
この日の波は外した。
それでも、飯が美味ければ、旅は続けられる。
腹を満たし、今夜の寝床へ向かう。
明日は、いよいよ稚内を目指す。
日本海をさらに北へ。
波の気配を探しながら、車はまた走り出す。
To be continued…
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