北海道サーフトリップ12日目。朝6時過ぎ、テントで目を覚ました。
前日のうちにスーパーで買っておいた朝食を済ませ、外へ出る。
空には薄い雲が広がっていた。知床の天気は変わりやすい。雨だけは降らないでほしいと思いながら、さっそく最初のポイントへ向かった。

最初にチェックしたのは、漁港に隣接するポイント。
朝イチで風は弱く、海面はきれいな面ツル。波さえあれば迷わず入りたくなるコンディションだったが、肝心のウネリが弱く、この日はノーサーフだった。
それでも、漁港が風をかわしそうな地形といい、静かなロケーションといい、雰囲気は悪くない。
ウネリの向きとサイズが合えば十分に可能性がありそうだ。次回の北海道サーフトリップで再チェックしたい場所としてブックマークしておいた。
周辺を歩いていると、少し気になる看板?貼紙?を見つけた。
ここは釣りの名所らしいが、遠方から訪れる釣り人と地元の人との間で、過去にトラブルがあったようだ。
サーフィンの世界では、ローカルとの関係やマナーが話題になることが多い。
前回の記事でも触れたが、海を共有する以上、釣りでも似たような問題が起きるのだろう。旅先ではその土地のルールや空気を読むことも大切になってくる。
次に向かったのは、小さな漁村集落の前に広がる海岸だった。

岸辺を見る限り、ボトムは玉石。河口や岩場も絡んでおり、ウネリさえ入れば形の良い波が現れても不思議ではない。
普段は静かな海でも、低気圧や台風から届いたウネリで突然表情を変える。そんな可能性を感じさせる場所だった。
地元の人にサーファーが入る場所なのか聞いてみたかったが、集落には人影がなく、残念ながら情報収集はできなかった。
こうした無名の海岸を見つけ、地形や風向きを想像しながら巡る時間も、サーフトリップの楽しみのひとつだ。
朝から2カ所のポイントをチェックしたところで、この日のメインイベントへ向かう。
到着したのは知床・ウトロ港。目的は、海上から知床半島を眺めるクルーズだ。
事前に予約していた観光船会社の営業所で受付を済ませる。
知床では2022年に痛ましい観光船事故が起きている。そのためか、安全に関する説明はとても丁寧で、運航判断の基準や緊急時の対応についても入念に案内された。
僕も念のため保険に加入し、緊急時用の発信機をレンタルした。
手続きを終えると、クルーズ船はウトロ港を出航。朝の曇り空はいつの間にか消え、知床の海には青空が広がっていた。絶好のクルーズ日和だ。
こけし岩やカムイワッカの滝など、陸路からは近づきにくい景勝地を眺めながら、船は知床半島の先端を目指して進んでいく。
海から見る断崖は想像以上に険しく、人を寄せ付けない知床の自然がそのまま残っていた。
航海は順調に見えたが、途中で船内にアナウンスが流れた。海上の風が強まり、安全に運航できる基準を超えたため、知床岬へ向かうコースは中止になるという。
乗っている感覚では、そこまで危険な強風には感じなかった。サーフィンの感覚で言えば、サイドオフショアの中程度からやや強めといったところだろうか。
だが、海では少しの判断の遅れが大きな事故につながる。安全がすべてに優先されるのは当然だ。
残念ではあったが、知床岬までのクルーズは次回の楽しみに取っておくことにした。船は進路を変え、ウトロ港へ戻っていった。
港へ戻ると、再び波チェックの旅を再開した。

最初に立ち寄ったのは、とある漁港。左側に堤防、中央には小さな川が流れ込み、海岸は玉石で形成されている。
漁港が風を軽減し、川の流れが砂を運んでくる。サーフポイントとして期待したくなる条件がいくつも重なっていた。
ロケーションも素晴らしく、ここで波に乗れたら最高だろう。
しかし、この日はいかんせんウネリが弱い。海はほぼフラットの状態、ここもノーサーフだった。

続いてチェックしたのは河口のポイント。
こちらもボトムは玉石で、地形さえ整えば良いブレイクが生まれそうだったが、海はほぼフラット。期待だけを残して次へ向かった。
次の場所は、少し前に知床のコンビニ店員さんから教えてもらったポイントだ。駐車場所まで事前に聞いていたため、迷うことなく海へ出られた。

インサイドは砂利のビーチだが、アウト側は玉石が続いているように見える。
ウネリが入ったときに、どこからピークが現れるのか。実際に波がある日にもう一度見てみたい。知床だけに日数を取って、じっくりサーフポイントを巡る旅も面白そうだ。
さらに進むと、もうひとつの河口ポイントにたどり着いた。
友人でサーフィン系YouTuberのコーヘイ君も、過去にこの周辺でサーフィンしたことがあるらしい。
周辺は釣りの名所でもあり、海岸には釣り人の姿が多かった。
しかし、この河口には鮭を狙うヒグマも頻繁に現れるという。波だけを見て海へ入るには、あまりにもリスクが大きい場所だ。
現地の案内では、5月から8月にかけて釣りが禁止される期間があるようだった。もしサーフィンを狙うなら、釣り人との接触が少ない夏の時期が候補になるのかもしれない。
それでも、ヒグマへの警戒は絶対に欠かせない。いろいろな意味で、難易度の高いサーフポイントだ。
波を探して知床を走り回っているうちに、すっかり遅い時間になっていた。空腹を感じ、ウトロ港の目の前にある食堂へ入る。
注文したのは海鮮ラーメンと、キトピロのおひたし。
キトピロとは、アイヌ語でギョウジャニンニクのことらしい。海の幸が入った熱いラーメンと、香りの強い山菜。どちらも北海道らしい、力強くてワイルドな味だった。
残念ながら、この食堂は僕が訪れてから約3カ月後に閉店したようだ。
旅先で偶然入った店の味が、もう二度と食べられない。そう思うと、この日の一杯がより特別な記憶に感じられる。
食事を終え、知床半島を横断して斜里側から羅臼へ向かった。
ウトロでは晴れていた空が、峠へ入ると一気に暗くなる。やがて小雨も落ち始めた。わずかな移動で天候が大きく変わるのも、知床らしさなのかもしれない。
道路脇からヒグマが現れる可能性もある。景色に気を取られ過ぎないよう、慎重にハンドルを握った。
約1時間で、知床半島の反対側にある羅臼の街へ到着。海沿いを走っていると、サーフィンできそうな場所を1カ所見つけたので車を止めた。

羅臼の海は、対岸に北方領土・国後島が横たわっている。そのため多くのウネリは島に遮られやすいが、強い北寄りのウネリが入れば波が立つ可能性はありそうだ。
静かな海を眺めながら、冬の低気圧が通過した日の景色を想像した。
ここでも地元の人から話を聞くことはできなかった。次に訪れるときは羅臼の民宿に泊まり、漁師さんや宿の人から海の情報を集めてみるのも良さそうだ。
羅臼を後にし、この日の宿泊地である根室へ向かう。
ただ、その前にどうしても立ち寄ってみたい場所があった。
夕暮れ前に到着したのは、北海道東部の野付半島。全長約26キロにわたって細長く伸びる、日本最大級の砂嘴(さし)だ。
周囲には民家がほとんどなく、海抜ゼロメートルに近い一本道が、海の上を走るように延々と続いている。ときおり道路脇にエゾシカの群れが現れ、そのたびに車を減速した。
派手な絶景が次々と現れる場所ではない。
けれど、左右を海に挟まれた細い大地を走っていると、本当に世界の果てへ向かっているような感覚になる。静かで、少し不気味で、どこか美しい。
この風景は、北海道の旅を終えたあとも鮮明に僕の記憶に残ることになった。
すっかり日が暮れた頃、ようやく根室市内へ到着した。
腹は減っていたが、まずは一日の疲れを流したい。向かったのは、昔ながらの大衆銭湯だった。
湯船に浸かりながら、朝から巡った知床の海を振り返る。
結局この日は一本も波に乗れなかった。それでも、漁港や河口、玉石の海岸をいくつも見て回り、次につながるポイントを見つけることができた。サーフトリップでは、波に乗れない一日も決して無駄ではない。
風呂上がりは、雰囲気の良い洋食店へ。根室のご当地グルメ、エスカロップを注文した。
バターライスの上にトンカツを乗せ、その上からデミグラスソースをたっぷりとかける。
料理としてはシンプルだが、疲れた身体にこの濃厚な味がたまらない。ひと皿食べただけで、根室という街を味わったような気分になれる。食の力は偉大だなと思う。
食後は、たまった洗濯物を片付けるためコインランドリーへ向かった。
回転する乾燥機をぼんやり眺めながら、翌日のルートを考える。
明日は根室の海岸線を探検し、北方領土を見に行こう。
To be continued…
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